水がきれいになる電子の流れ

(平成28年5月22日「こうがく祭」出展内容を文章にしたものです)

水を川に「もどす」こと

 お風呂や洗濯、台所やトイレなどで流した水を排水といいます。排水はよごれた水です。トイレの排水とそれ以外を区別するときには、汚水(=トイレの排水)、雑排水(=トイレ以外の排水)ともいいます。これらの排水は、微生物にとって栄養になるものをたくさん含んでいて、排水をそのまま川に流すわけにはいきません。もし流したら微生物だらけになって、その微生物が呼吸するので水中の酸素が足りなくなってしまいます。そうしたら魚も生きられません。川に流す前に、微生物の栄養になるものを取り除いておくことが必要です。

よごれた水で活躍する微生物

 よごれた水を、魚が生きられる程度にきれいにするため、浄化槽を使います。人が多く住んでいる街では、家から出た排水を下水道で一か所に集めて、大きな浄化槽(下水処理場)で、きれいにしています。畜舎(豚などをたくさん飼っているところ)からも排水が出てきます。
 排水が浄化槽の中に入ると、そこで微生物たちが「有機物」など栄養になるものを食べて分解します。「有機物」は炭素を含む化合物で、ここでは微生物の栄養になるものと考えて下さい。微生物の働きによって、有機物の大部分は二酸化炭素と窒素に分解されて大気中に出てゆき、一部は新しい微生物の体になります。そうやって有機物が少なくなれば、川に流しても大丈夫な水になります。
 ところが、有機物でも微生物が食べにくい(分解しにくい)ものがあります。例えば、ヒトや動物のための医薬品の一部、紫外線吸収剤、人工香料などです。このような、微生物によって分解されにくい有機物(難分解性溶存有機物)は、水に溶けたまま、川や湖へ、流れて行くことになります。その中には、生き物に悪い影響があるのではないか、気になるものもあります。
 このように、汚れた水をきれいにする仕事の大部分は、微生物のはたらきに頼っていますが、限界もあるということになります。川の下流に住んでいる人たちは、上流から流れてきた水を浄水場できれいにして飲み水にしているので、もし水中に有害物質が多く含まれているとたいへんです。


下水処理場から川へ水を放流しているところ(那珂川・茨城県ひたちなか市)

おいしい飲み水のできるまで

 浄水場では、川からポンプで水を取ってきて、水の「にごり」を無くして飲み水をつくっています。
 その方法は、まず水に混ざっている大きなごみや砂を取り除いてから、薬品(凝集剤)を加え、細かい土の粒どうしをくっつけて大きな粒にして、沈めています。これで沈まなかったものは、きれいな砂の中を通すことによって取り除いています。最後に塩素を加えて、病気の元になる細菌を殺しています(消毒)。
 こうして、透き通っていて見た目のきれいな水ができますが、じつは水に溶けている有機物を取り除くのは得意ではありません。いちばん気になるのは、においの元になる有機物(ゲオスミン、2-メチルイソボルネオール)で、これは川の上流で藍藻(緑色をしていて、植物のように光合成で酸素を生み出す細菌の一種)が作り出しているもので、カビ臭いにおいがします。次に気になるのは、有機物の溶けている水に消毒用の塩素を入れることによってできる物質(消毒副生成物)のトリハロメタンで、発ガン性があると言われています。
 最近では「高度浄水処理」といって、水に溶けている有機物を取り除いている浄水場もあります。茨城県の水海道浄水場では、空気中の酸素からつくったオゾンという気体を使って、においの元になる有機物などを、微生物が分解しやすい物質に変化させて(部分酸化)、そのあとで微生物に分解させて、最後に活性炭に吸着させて取り除いています。このように苦労してきれいにした水は、とてもおいしいということです。
 高度浄水処理で使われているオゾンは、空気から作ることが出来ます。必要になるのは電力です。水が汚れているとオゾンも多く必要になるので、オゾンを多くつくるためには、それだけ多くの電力(エネルギー)を使います。やはり、川のよごれをできるだけ少なくすることが一番大切です。それと同時に、なるべく少ない電力で水をきれいにしたい、という考えがでてきます。このためには、オゾンを上手につくって、上手に使う。この二点が大切になるでしょう。


川の水を取水しているところ(久慈川・茨城県日立市)

水がきれいになる電子の流れ

 ここで、「高電圧パルスパワー研究室」で実験している装置の仕組みについて紹介します。まず、この装置の心臓部(一番大切なところ)は、オゾンをつくるための電子が出てくる場所 (あるいはその反対に電子が入るところ) です。これを電極と呼んでいます。電極は二種類あり、先端がとがっているほうの電極にマイナス、とがっていない電極にプラスの電圧を加えます。「マイナスの電圧」とか「プラスの電圧」というのは、電子に加わる力の大きさや、向きを表すときに使う言葉です。
 このようにすると、電極のとがっている先のところにある電子が、プラスの電極の方向に向かって流れて進んでいきます。電子が進んでゆく途中には空気があるので、このなかの酸素の分子に電子が衝突することがあります。衝突したときに、分子が二つに分かれることがあります。これが別の酸素分子と結びついたものがオゾンです。同じようにして、酸素ラジカル、ヒドロキシルラジカル、と呼ばれる物質もオゾンと一緒にできます。これらはオゾンと同じように(あるいはオゾン以上に)有機物を化学変化(酸化)させるはたらきが強いものです。これらをまとめて「活性種」とよんでいます。オゾンは、静電気のにおい(冬など、空気が乾いているときにセーターを脱いだときのにおい)がするのですぐに分かります。しかし鼻やのどを痛めるので、長い時間、においをかいではいけません。
 このように、空気中に電子の流れをつくることで簡単に活性種をつくることが出来ます。ここで大切なのは電子の勢い(速さ)です。電子に十分な勢いがあれば、空気中の分子との衝突の結果、活性種ができますが、勢いが足りないとできません。電子の流れに勢いをつけるためには、飛んでいる電子に強い力が、ある程度の時間、働き続ける必要があります。電子にこのような強い力を加えるのが「高電圧」です。


電圧をはかる装置(静電電圧計)

 我々の研究のなかで、およそ1万5千ボルトの電圧によって、500万分の一秒という短い間に、電極から出てきた電子に勢いをつけてやるのが良いということが分かりました。また、この時間が長すぎるとかえって良くないということも分かってきました。このため、ほんの短いあいだ電圧を加えたら、そのあとすこし休む、というのを一秒間に2000回ぐらいの早さで繰り返します。
 我々の装置で一番工夫しているところは、活性種をつくるところと使うところが一緒になっているところです。活性種を「つくる」ための電極は、モーターによって水の中で回転する円柱に取り付けてあって、水中で円柱が一分間に何千回も回転することによって、電極も一緒に回転するようになっています。そうすると、電極と一緒に活性種を含んだ空気が水中で動くことになります。ここで活性種を「使う」ことになります。円柱の回転が速くなればなるほど、活性種は多くの水とふれあうことになります。発生させた活性種を、すばやくたくさんの水にふれさせてやれば、その水に溶けている有機物は、自然の微生物が分解しやすい物質に変化すると考えています。最終的には微生物の力を借りるわけです。このように、きれいにできる水の量を増やすための工夫を考えています。 
 この処理は、排水が浄化槽を通った後で、川に流れ込む前に行います。そうすれば、微生物が分解できなかった有機物をへらすことになります。つまり、水中の「難分解性溶存有機物」を減らすことになり、水道の水がきれいになることにつながるでしょう。また、オゾン処理を行ったあとの水には酸素が増えるので、水中に住んでいる生物が増えるという報告もあります。
 太陽光発電(ソーラー)でつくった電気で水をきれいにしながら、川の生き物と風景も豊かになるのが理想です。

(以上は平成28年5月22日に「こうがく祭」へ出展したときの説明をまとめたものです)
 


  (久慈川・茨城県常陸大宮市)


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